2007年、あるニュースが日本の観光業界、そして登山愛好家たちに衝撃を与えました。東京都心から電車でわずか1時間の場所にある「高尾山」が、フランスの権威ある旅行ガイドシリーズで最高評価の「三つ星」を獲得したのです。
それまで「手軽な遠足の山」というイメージが強かった高尾山ですが、京都や奈良、富士山といった日本を代表する観光地と並び、「わざわざ旅行する価値がある」と世界基準で認定されたこの出来事は、高尾山を「世界のTakao」へと変貌させる転機となりました。
なぜ、標高わずか599mの低山が、これほどまでの高評価を受けたのでしょうか?

本記事では、2007年の選出背景にある決定的な理由と、その評価を支える知られざる環境保全の努力、そして世界一の登山者数を誇るようになった現在の魅力を徹底解説します。
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2007年の快挙!高尾山がミシュラン三つ星に選ばれた事実

2007年にフランスで発売された日本向け旅行ガイドブック『MICHELIN Voyager Pratique Japon(ミシュラン・ボワイヤジェ・プラティック・ジャポン)』において、高尾山は最高ランクである三つ星評価を獲得しました。その後、2009年に発行された観光ガイド『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』でも高尾山は三つ星の観光地として取り上げられています。
このガイドシリーズにおける三つ星評価は、「わざわざ旅行する価値がある」という定義を持ちます。高尾山は京都、奈良、日光、富士山などと並んで選出され、都市近郊の里山としては異例の評価を受けました。
| 評価 | 定義 | 当時の主な選出地 |
|---|---|---|
| 三つ星(★★★) | わざわざ旅行する価値がある | 京都、奈良、日光、富士山、高尾山 |
| 二つ星(★★) | 寄り道する価値がある | 鎌倉、松本城など |
| 一つ星(★) | 興味深い | 各地の博物館や庭園など |
もともと年間約200万人前後だった登山者数は、この評価をきっかけに急増し、ピーク時には年間300万人とも言われる「世界一登山客が多い山」として広く知られるようになりました。
世界が感動した3つの理由:アクセス・生態系・文化

ミシュランが特に高く評価したのは、「大都市近郊にありながら、豊かな自然と歴史的文化が奇跡的に共存している点」でした。ここでは、その理由を3つの視点から深掘りします。
1. 都心から約1時間の驚異的なアクセス
新宿から京王線特急で最短約50分、高尾山口駅で下車すれば、駅前からすぐに登山口へアクセスできます。人口1,400万人を抱える巨大都市・東京のすぐそばに、これほど本格的な自然環境が存在することは世界的に見ても稀です。
さらに、ケーブルカーやリフトが整備されており、普段着やスニーカーでも標高472m地点まで一気にアクセスできます。この「手軽さ」と「大自然」のギャップが、海外旅行者にとって大きな驚きとなりました。
2. イギリス全土に匹敵する「植物の宝庫」
高尾山の植物相は、生物学的にも非常に価値が高いものです。標高599mという低山でありながら、約1,600種類もの植物が自生していると言われており、これはイギリス全土に自生する植物種数に匹敵するレベルです。
その理由は、高尾山が暖温帯(常緑広葉樹林)と冷温帯(落葉広葉樹林)の境界線に位置していることにあります。2つの気候帯が重なり合うことで、多種多様な植物と、それらを餌とする昆虫や野鳥、ムササビなどが豊かな生態系を形成しているのです。
3. 歴史と文化:霊山としての顔
高尾山は単なるハイキングコースではなく、1200年以上の歴史を持つ「霊山」です。中腹に位置する髙尾山薬王院は、奈良時代の744年に開山された真言宗智山派の大本山の一つで、天狗信仰や修験道の修行の場として知られています。
登山道の途中にある杉並木や荘厳な山門、随所に見られる天狗の像など、自然の中を歩きながら日本の精神文化や建築美に触れられる点は、外国人観光客にとって非常に魅力的な「日本体験」となります。
評価を裏付ける「影の努力」:ゴミ持ち帰り運動

高尾山が三つ星を獲得できた背景には、地元の人々や行政、そして登山者による長年の「保全活動」がありました。特に、山全体の景観を大きく改善したのが、1980年代から本格的に進められた「ゴミ持ち帰り運動」です。
かつて観光地化が進む中で、高尾山ではゴミの放置が深刻な問題となっていました。高尾山薬王院、高尾登山電鉄、山上の茶店などが連携し、啓発活動と清掃活動を重ねることで、現在のクリーンな環境が作られていきました。
「ゴミ箱を撤去する」という英断
通常、観光地ではゴミ箱を増やす方向で対応しがちですが、高尾山ではあえて「ゴミ箱を撤去し、ゴミはすべて持ち帰ってもらう」という方針を徹底しました。当初は反発もありましたが、「高尾山ではゴミを持ち帰るのがマナー」という意識が浸透し、登山道にはゴミがほとんど落ちていない状態が維持されています。
ミシュランの評価基準には、景観や自然だけでなく「受け入れ態勢の質」や「維持管理のレベル」も含まれます。年間数百万人が訪れるにもかかわらず、山全体が清潔に保たれている点は、高尾山の評価を押し上げた重要な要素と考えられます。
選出から現在へ:進化し続ける高尾山の楽しみ方

2007年の三つ星選出から15年以上が経過し、高尾山は登山だけにとどまらない総合的な観光地として進化を続けています。現在では、登山前後の「癒やし」や「学び」のコンテンツも充実し、リピーターが多い山としても知られています。
1. 登山後の至福「京王高尾山温泉 / 極楽湯」
2015年、京王高尾山口駅の隣に天然温泉施設「京王高尾山温泉 / 極楽湯」がオープンしました。地下約1,000mから湧き出る温泉を楽しめる露天風呂や食事処があり、下山後すぐに汗を流してくつろげる「登山+温泉」という理想的な過ごし方が可能です。
2. 自然をおしゃれに学ぶ「TAKAO 599 MUSEUM」
登山口近くに位置する「TAKAO 599 MUSEUM」は、高尾山の生態系や歴史をスタイリッシュな展示で紹介する入館無料のミュージアムです。美しい標本展示や映像コンテンツ、カフェスペースがあり、登山前の情報収集や下山後の休憩スポットとしても人気を集めています。
3. 日本遺産への認定
2020年には、「霊気満山 高尾山 ~人々の祈りが紡ぐ桑都物語~」として日本遺産に認定されました。八王子市全体の歴史文化ストーリーの中核として、高尾山の信仰・自然・門前町文化が改めて評価された形です。
おすすめ:混雑を避けるコツ
世界一とも言われる登山者数を誇るため、紅葉シーズンやゴールデンウィークなどは大変混雑します。
- 早朝登山
朝8時前に高尾山口駅に到着すると、比較的人の少ない静かな山歩きが楽しめます。 - 6号路(沢沿いコース)
舗装された1号路は混雑しやすい一方で、自然豊かな6号路は比較的落ち着いて歩けることが多いです(時期によって一方通行規制がかかる場合があるため事前確認がおすすめ)。 - 平日利用
可能であれば平日に訪れることで、山頂や薬王院での滞在をゆったりと楽しめます。
まとめ:今こそ登るべき、世界に誇る高尾山
2007年のミシュラン三つ星獲得は、高尾山にとってゴールではなく、新たなスタートでした。都心からすぐの距離にありながら、約1,600種もの植物が息づき、ゴミ一つない美しい登山道が維持されていることは、自然の力と人の努力が共鳴した結果だと言えます。
「世界が認めた山」という肩書きに惹かれて訪れた人も、一度歩けばその奥深い魅力に気づき、何度も足を運ぶリピーターになることが少なくありません。

次の休日はスニーカーの紐を結び、世界に誇る高尾山で、自分なりの楽しみ方を見つけてみてはいかがでしょうか。
高尾山 基本情報
| 項目 | 詳細情報 |
|---|---|
| 住所 | 東京都八王子市高尾町 |
| アクセス | 京王線「高尾山口駅」下車すぐ |
| ケーブルカー | 大人往復 980円 |
| 駐車場 | 周辺に市営駐車場・民間駐車場あり(週末・繁忙期は早朝満車に注意) |
| 公式サイト | 高尾登山電鉄公式サイト |






