木工と陶器 hanamame ~高尾山麓で、アップサイクルなライフスタイルを~

谷本広幸
ヒロユキ

思い出づくりコンシェルジュのヒロユキです。
今回の取材先は、八王子市の高尾山麓にある三浦孝之さんの自宅兼工房「hanamame」です。
三浦さんは大学の先生をされていて、さらに木工作家でもあるとも伺っています。
自分も趣味で木工を楽しんでいるので、今回の取材がとても楽しみでした。
三浦さんはアップサイクルな活動もされているということで興味津々です。

 

アップサイクルとは、本来捨てられるはずの製品に新たな価値を与えて再生すること。
「創造的再利用」とも呼ばれています。
デザインやアイデアによって付加価値が与えられて、製品のアップグレードと捉えることもできます。
リサイクルでは、ペットボトル、衣類、紙を原料に戻す際にエネルギーを必要としますが、アップサイクルは、元の素材をそのまま生かすので、さらに持続可能な再利用の手法ともいえます。

夫婦ユニット hanamameのコンセプト

「hanamame」主宰 三浦孝之さん。とってもフレンドリーにインタビューに答えてくださいました。

プロフィール
三浦孝之 北海道生まれ。
生木木工とチーズ製造が専門。日本獣医生命科学大学准教授。
2006年上京。2010年より東京高尾山麓の自宅兼工房で制作開始。
2022年「ビーパル」掲載、NHK「チコちゃんに叱られる!」、日本テレビ「熱血ハカセのガチ遊び」に出演。
「hanamame」は、木工作品をつくる三浦孝之と陶器をつくる妻の潤、ふたりのユニット名。
木工と陶器を融合させた作品を制作し、代官山や中国での展示会に出品している。
看板作品は、生木を使った木製のマグカップ。
掲載メディア:雑誌「ビーパル」、誠文堂新光社「手づくりする木の器」「ドゥーパ」など。
常設店舗:中国 明美術館、布可商店。台湾 小院子。

高尾山麓にある自宅兼工房に案内されると、そこは飴色の木目の壁に囲まれていて、まるで山小屋に居るかのような感覚になります。
14年ほど前に新築されたときに、内装はなるべくDIYで自分でやりたいと工務店と交渉されたということです。

自宅兼工房の室内は飴色の木目の壁に囲まれていて、まるで山小屋に居るかのような感覚になります。

ギャラリーのように、居間の色々なところに素敵なものが飾られています。

 

マグカップ

大人気のマグカップ。hanamameの定番商品です。

大きな窓からたくさんの自然光が入るとても明るい居間で、三浦さんのお話を伺いました。

―― 大学の研究者というお仕事と木工のお仕事と、ダブルワークされているのはどういうお気持ちからですか?

三浦さん:私も妻も北海道出身で、高校を卒業したら大学へ行かずに、ハムやソーセージを作る職人になりたいと考えていました。
でも、高校の先生から大学に行く方が良いと勧められて大学へ進学することにしたんです。
卒業後は、東京の大学で勤務することになりました。
私は、自分のハムやソーセージを作りたい気持ちが強いのですが、大学では自分が作っても自分のものではなく、やはり大学のものなのです。
このフラストレーションを解消するために生木木工を始めたというわけです。

三浦孝之さん

ワンちゃんたちも家族の一員。とても懐いています。

―― 生木木工とはどのように出会ったのですか?
三浦さん:もともと、妻が勤めながら陶芸をしていたのですが、私は陶芸以外のことをしたいと思っていたんです。
自宅には薪ストーブがあるのですが、燃料につかう生の丸太を初めて触ったときに、「これまで理解していた木材とは、全く違う素材」であることにびっくりしました。
水分をたっぷりと含んでいて、本当に生き物だと感じたのです。
ふだん、ハムソ-セージを作るためにはブタを解体するのですが、丸太を解体したときにも共通した生命を感じて、生木を素材として扱おうと思ったのです。
当時、ちょうど海外からGreen Wood Workingという概念がようやく日本に入って来ていました。
日本の木工は、十分に乾燥した木を使っていいところだけを使う「水平・直角・つるつるにカンナかけ」という世界観でしたが、Green Wood Workingの、「捨てられるような丸太を生の状態でそのまま使う」コンセプトに出会ったのです。

このような丸太は処分されるか薪ストーブの燃料となるが、三浦さんの想像力と技術により新たな価値が生まれます。

―― 奥様 (潤さん)の陶芸と生木木工を融合させ、「hanamame」としてブランド展開をされていると伺いましたが、どのようなご苦労がありますか?
三浦さん:妻が制作した陶芸の器にピッタリと融合するよう、私が木工部分を制作するのですが、この辺りは毎回苦労するところです。

奥様が制作される陶器と木製の蓋がマリアージュして、素敵な作品に仕上がっています。

 

コラボレーションした作品には、ほのぼのとした動物の絵が描かれていました。

―― 生の丸太を素材として、何を制作してゆくか試行錯誤はありましたか?
三浦さん:家具を作る選択肢もありましたが、家具づくりをするためには広い作業場が必要となるので、自宅のスペースで制作できるものを探していました。
当時、恩方にアトリエを構えていた、アウトドアクラフト作家の長野修平さんが作っていた自然素材のカトラリーや器に影響をうけて、木の器を作り始めました。
最初に作ったのは木のマグカップ。それが今でも代表作になっています。
私が食品を扱っていて、妻も陶芸で食器を作っているので、器を選んだということもあります。
ある時、丸太を集めに行ったとき、作ったマグカップを持っていたら、たまたま居合わせたお婆さんに「マグカップを売って欲しい」と言われて、「えっ、これ売れるの?」と思ったのが始まりでした。
それから、作っては売って、作っては売って、ということが始まったのです。
その頃、須田二郎さん (生木から器を切り出す技術の日本の第一人者)と出会って、「適当なアマチュアになるな」と叱咤を受けながら、弟子として活動させて頂きました。
そして、代官山のギャラリーをご紹介頂いて今日に至ります。

hanamameの看板犬。左からあんこ(フレンチブルドッグ)とダイズ(ブルドッグ)。

―― ワンちゃんが2匹(あんことダイズ)とても存在感があって、ご自宅の居間に居てご家族の一員のようですね。
三浦さん:実は、hanamameとして活動を始めた当初、フレンチブルドッグの「あんこ」をいつも背負って行っていて、看板犬となって人気だったのです。

アンコを背負う三浦さん

10年前、あんこを背負う三浦さん

あんこ目当てで来てくれるお客さんもいました。
あんこがいなかったら、今のようにブランディングできなかったかもしれません。

丸太からお皿ができあがるまで

三浦さんが取材陣のために、丸太からお皿を作る工程を実演して下さいました。
動画で撮影したので、ぜひご覧ください。

制作工程① チェーンソーで丸太をカット

なんと、チェンソーが出てくるとは予想しませんでした。

制作工程② 旋盤作業

旋盤で削る作業です。
まだ瑞々(みずみず)しい木に全身で挑まれているような気迫を背中から感じます。
水をたっぷり含んでいるので、旋盤で削ると、回転方向へ水しぶきが飛んで行きます。
左側にあるスクリーンに水しぶきが飛んだ跡があります。正に生きた素材です。

生きた素材が、三浦さんの手により、段々と新しい形に生まれ変わろうとしています。

綺麗な形のお皿が出来ました!と思ったら、まだこの先が面白いところです。
この段階では、削った表面が水分でしっとりしています。

制作工程③ おが屑の中で乾燥させて完成

ここから乾燥工程に入ります。
急速に乾燥させると割れが起きることがあるので、おが屑の中に入れて、ゆっくりゆっくりと乾燥させます。

ゆっくり乾燥させると、正円だったお皿の形が、このように自然な歪みのあるお皿になります。
陶芸による手びねり(電動ろくろを使わずに、土を指先で伸ばしながら成形する方法)の茶碗を連想しました。
三浦さんによると、生木木工では絶対に同じものを作ることができないとのこと。
この制作過程を知ると納得ですね。

360度カメラで三浦家のライフスタイルを感じて下さい

取材時の様子を360度写真で見て頂けます(取材陣が写っていますがご了承ください)。

hanamameさん取材時の写真 #theta360fan #thetax #hanamame #theta360 – Spherical Image – RICOH THETA

RICOH THETA公式サイトでも閲覧できます

さらに、三浦さんのものづくりの想いをうかがいます

―― 三浦さんのアイデアの着想は、どんなところから生まれるのですか?
三浦さん:アイデアが出なくて困ったことはありません。作りたいものが自分の中からどんどん沸いてくるのです。
大学の研究では、実証して段々と積みあげていくのが基本的な仕事の手順です。
私の場合、そういうプロセスを踏まず、先に閃きがあって、後から積みあげる作業をして、結果的に閃いたことが正しかったということがあります。
大学の研究では自由な発想で仕事はできません。
しかし、木工では自由な発想を試すことができるので、大学の研究と木工の両方でバランスが取れているのです。

―― 大学ではどのような研究をされていますか?
三浦さん:大学での仕事でも、けっこう新しいことをやっています。
世界初「麹チーズの開発」や、チーズ製造の廃棄物である「ホエイのアップサイクル」として、ブラウンチーズの製造方法や専用の機械を開発してきました。
過去、いろいろな方が麹でチーズを作ることにチャレンジしてきましたが、いいものができなかったのです。
私達は、麹を乳製品や肉料理に使う方法を生み出すことも仕事としています。
また、チーズの職人さんに製造方法を教えるケースもあります。
一般的に、職人さんと大学の研究者の思考回路は大きく違います。
職人さんに教えることは、なかなかうまくいきません。
私の場合、木工の世界で職人気質の須田さんと一緒に仕事をするなかで、職人さんの悩みや感覚を持つことができました。
おかげで、チーズ職人さんへ指導することがとてもスムーズになりました。

雑誌の表紙にはhanamameさんのマグカップ(中段右)が。

―― 大学の研究と木工。二足のわらじはそれほど簡単なことではないように思えますが。
三浦さん:大学ではフルタイムで働いているので、帰宅は夜遅くなることが多いのですが、どんなに遅くなってもスプーンひとつは作るようにしています。
体力的にはかなり大変ですが、そうしないと気持ちの上でバランスが取れないのです。
また、展示会があると家内の陶芸を含めて、月に200個から300個作ることになり、納期にいつも追われています。
さらに、中国での展示会があると、600個くらいは出品しないといけないのでかなりハードとなります。
このため、オーダーによる制作はかなりお断りしているという現状もあります。
本当は、新しいものをどんどん作りたいところですが、定番品を作らないといけないという苦しさもあります。
でも、企業さんとコラボして新しいコンセプトを考えるときなどは、とても楽しいですね。

―― 全く車の両輪なのですね。どちらが止まってうまく進んで行かない訳ですね。

材木たちは三浦さんの想像力により、どのような形に生まれ変わるのでしょう。

取材を終えて

ヒロユキが感じた生木木工の醍醐味は、旋盤で加工が終わったときは正円で、乾燥してゆく過程でだんだんと自然な歪みが出てくるところです。
また、食卓で使い込んでいくほどに深い色に変化しているお皿などを、三浦さんのキッチンで見せて頂きました。

私の自宅も含めてほとんどの一般家庭は、工場で作られた変化しないものに囲まれているので、生木木工の考え方にはとても新しいものを感じました。
日本の伝統的工芸品を見渡すと、漆を使った漆器を始め、長く使えば使うほど、味が出てくるものがあります。
海外から入ってきた生木木工と日本の伝統工芸品に、共通するものがあるのだなあと思いました。
さらに、三浦さんのライフスタイルからから感じたものは、人間が「自然」と関わるときに、人間の想像力を働かせることが大切だということです。

三浦さんは、大学の仕事で動物やチーズの研究をするいっぽう、hanamameでは生きた木材や大地の土を活かす活動をされています。
プライベートではお子さんと頻繁に魚釣りへ行くなど、自然と常に向き合っている姿は、私にとって刺激的なものでした。

谷本広幸
ヒロユキ

最近、アップサイクルという言葉を耳にするようになりました。
三浦家独自のライフスタイルは、そのような言葉が流行る前から始まっていて、人々と自然との出会いに導かれて生まれてきたのでしょう。
そして、想像力が加わって、今後も進化していくのでしょう。

 

hanamame 基本情報

Instagram:@hanamameanko
ブログ:http://nyuniku.exblog.jp/
テレビ出演情報:
 日本テレビ「熱血ハカセのガチ遊び」 放送日時:令和4年4月21日(木)
 NHK「チコちゃんに叱られる!」 放送日時:令和4年7月22日(金)

メディア掲載情報:
2022年3月に発行されたBE-PALの表紙にhanamameさんが掲載されました。

360°Photo by 坂部篤志( リコーTHETAプレミア アンバサダー
Photo by 渡邉美穂子( mommy 主宰
Video by 山田ニーナ( yamadado 代表
Written by 谷本ヒロユキ( ミニチュアドールハウスRU*NA )
Produced by 佐藤秀之( Spyral 代表

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