恩方くらしラボ② ~協生農法ってどうやるの?ソニーCSLが研究する自然の力を引き出す野菜づくり【座学編】~

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高尾フモト同盟主宰 佐藤です。(→ こんな仕事をしています
2022年4月29日、恩方くらしラボが開催したイベント「協生農法ってどうやるの ~ソニーCSLが研究する自然の力を引き出す野菜づくり~」に参加してきました。

ちなみに、恩方くらしラボとは、八王子市恩方の森(踊る株式会社が管理)に隣接する耕作放棄地で、くらしと自分の内側を豊かにしていく実験をするプロジェクトのこと。プロジェクトの1年目は、この耕作放棄地に4つの異なる自然農法で畑を作っていきます。詳しくはこちらをご覧ください → 新プロジェクト「恩方くらしラボ」が始まります

今回のイベントは、私にとって今年一番の衝撃ともいうべき内容でした。驚愕すべきは、サハラ砂漠の南にある最貧国のひとつ、ブルキナファソでの実証実験。雑草も生えない枯れた地で、協生農法はどのような結果を残したのでしょうか?

協生農法とは

今回ご紹介する協生農法®︎*は、ソニーコンピュータサイエンス研究所(以降、ソニーCSL)の舩橋真俊(ふなばしまさとし)博士を中心に研究されているユニークな農法のこと。簡単にいうと、土を耕さず、肥料や農薬も使わずに多種多様な植物を密集して植え、植物本来の力で土壌と生態系を回復させる方法です。

「ソニーがなんで農業やっているの?」と疑問を抱かれる方が多いかもしれませんが、ソニーCSLはプラネタリーアジェンダ(この惑星のために取り組むべき課題)に取り組んでいて、そのひとつが協生農法と拡張生態系の研究というわけです。

▼(参考情報)
ソニーCSL 協生農法と拡張生態系プロジェクトページ
https://www.sonycsl.co.jp/tokyo/407/

協生農法は株式会社桜自然塾の大塚隆さんが農業の矛盾に気づき、2008年から始めた協生農園が始まりです。その後、舩橋博士が大塚さんと知り合い、科学的に定式化しました。

▼舩橋博士は、ソニーのWEBコンテンツ動画「これからも、わたしたちが地球に居続けられるために」で協生農法について熱く語っています。6分程度の動画なのでぜひご覧下さい(以下、引用動画:オープニング&1分50秒~で 舩 橋博士が登場します)。

協生農法ってどうやるの? 座学編

協生農法の座学は、耕作放棄地での協生農法ワークショップが終わったあと、近くのお寺(浄福寺)に移動して行われました。

▼ ワークショップの模様はこちらをご覧ください。
恩方くらしラボ  ~協生農法ってどうやるの?ソニーCSLが研究する自然の力を引き出す野菜づくり【実技編】~

今回のイベントでは、 ソニーCSLの太田耕作さんと、舩橋博士が代表理事を務める一般社団法人シネコカルチャーで協生農法の社会実装活動に尽力している、岡本覚さんのお二人を講師としてお招きしました。

左から太田耕作さん、岡本覚さん。将来有望な研究者を講師にお招きしました。

座学はまず太田さんのパートから始まったのですが、はたしてその内容は衝撃的なものでした。

農地拡大による生物多様性の喪失がかつてなく進行している

近年、人間活動に伴う環境負荷の増大で生物多様性が失われています。環境負荷には農地の拡大、環境汚染、気候変動、都市化に伴うインフラ整備など様々ですが、なかでも、農地拡大による生物多様性の喪失がかつてないスピードで進行しています。増え続ける人口を養うため、森林などの自然環境を農地に転換した結果、多様な動植物が居場所を失い、生態系が崩れた結果と考えられます。

ソニーCSL シネコカルチャープログラム アシスタントリサーチャー太田耕作さん

また、大規模な慣行農法(農薬や化学肥料を使用した単一種を栽培する農法)を営んでいるエリアでは、農地周辺の水系が汚染されていることが確認されました。土壌に染み込んだ農薬や化学肥料が河川に流れ込み、海にまで影響を及ぼしています。農業による砂漠化も進行しており、気候変動の要因にもなっています。

人間活動による6回目の生物学的絶滅が進行中

農業をはじめとする人間活動で環境負荷が高まり、このまま生物多様性が失われていくと、2045年までに生態系の崩壊が一気に進むと予測する生物学者もいます。このように、これまで緩やかだった生態系の変化が、ある時点で崩壊に向けて急激に進行することを「生態系のレジームシフト」といいます。有史以来、地球上では生物の大絶滅が5回発生していますが、いったん生態系のレジームシフトが発生した場合、元の生態系に戻るまで膨大な年月がかかってしまいます。

昆虫の大絶滅は地球上の生態系に壊滅的な影響を与える

生物の大絶滅プロセスの中で、最も大きな影響を与えるのが昆虫です。近年、昆虫の減少は壊滅的で100年後には絶滅してもおかしくないという生物学者の研究結果もあります。主な原因は集中的な農業と農薬と考えられており、人類は何千年も農業を続けていますが、この間、現在のような昆虫の減少は起きたことがないといいます。昆虫はさまざまな鳥や動物の餌となり、植物の受粉に貢献するという重要な機能を果たしています。慣行農法による食物の生産方法を変えないと昆虫が絶滅し、地球上の生態系に壊滅的な影響を与える可能性があります。

生態系と生物多様性についてわかりやすく図解しているサイトがあるのでリンクしておきます(佐藤)。
→ 大阪府「生態系と生物多様性とは」

慣行農法と流通形態はもはや持続可能ではない

慣行農法は、生理学的最適化をベースにした単作栽培を特徴としています。生理学的最適化とは、植物によって異なる環境条件(日照や水・肥料等)を、栽培する単一種に最適化することにより、成長率の最大化を追求する仕組みです。慣行農法は、生理学的最適化を単一種に適用した、部分最適化の農法であるといえます。

慣行農法の問題点として、投入したエネルギーに対して利用できるエネルギーが低いことも特徴です。農業生産に投入される農薬や化学肥料などの化石燃料エネルギーは、生産される食料の平均カロリーを上回っており、極めて非効率な生産システムであるといえます。慣行農法とは、化石燃料を使って生物多様性と食の多様性の両方を下げる文明活動といえます。

慣行農法は高い環境負荷をもたらしますが、家族単位で地産地消の農業を営んでいる小規模農家もまた同様です。統計データによって数字にばらつきはありますが、家族経営の小中規模農家の就業者数は20億人を超えると言われ世界人口の約1/4~1/3を占めます。また最新の推計(※1,2)では、小規模農家の保有する農地数は世界の約84%、生産する食料は世界の約1/3を占めるといわれ、大規模農家に匹敵するかそれ以上にスケールが大きいのです。また、亜熱帯・熱帯の途上国を中心とする小国の小規模農農家は気候変動の影響を最も受けやすく、生物多様性の喪失だけでなく砂漠化の原因にもなっています。

※1:https://www.fao.org/news/story/en/item/1395127/icode/
※2:https://ourworldindata.org/farm-size
(2022年6月27日閲覧)

また、慣行農法は生物多様性を下げるだけでなく人間の食の多様性も下げる結果となっています。人間が食べる植物の90%はわずか30種類の植物で構成されているといわれており、その結果、生産農家は人間が好む植物に偏って生産するようになりました。実は、自然生態系で人間が食べられる植物は30,000種あるといいます。人間がいろいろな種類の植物を食べるようになれば、農家も多品種を生産するようになり、生態系も復活することにも繋がるのではないでしょうか。

このように、農業による食糧生産と環境問題は密接な関係にあります。国際機関が発行する持続可能な農業への提言書では、慣行農法と流通形態はもはや持続可能ではないと指摘されました。

では、化石燃料を使わずに生物多様性と食の多様性を上げ、環境問題をも改善する食料生産は可能なのでしょうか。私たちはその可能性を協生農法の中に見出しました。

協生農法とは自然生態系が持つ自己組織化能力を引き出し生産性を高める農法

協生農法とは、生態学の観点を取り入れた新しい農業です。地球上の生態系がもともと持っている自己組織化能力を活用しながら、人間にとって有用な植物を生産する農法といえるでしょう。従来の農法では生産強度を拡大するほど環境負荷が高まり、生物多様性が大きく損なわれますが、協生農法は「生産強度を拡大するほど生物多様性が高まる拡張生態系の仕組み」を前提としています。

基本的に無耕起、無施肥、無農薬で圃場には種と苗以外持ち込みません。雑草も野菜に優勢にならない程度であれば許容し、土壌環境の構築と多様性の維持、野菜との共生を図ります。植物につく害虫はそれを捕食する天敵が駆除することで食物連鎖を構築し、外部生態系からの物資循環を促進します。

具体的には、果樹を含め多種多様な有用植物を植え、自然植生遷移による生態系を作りあげます。植生遷移とは、まずその土地に微生物が侵入し、つぎにコケ類が生え、草が生えて、やがて森林となる変化のことをいいます。植生遷移の過程で木が育ち、生態系ができあがるということです。多種多様な植物には、絶滅危惧種を含めたさまざまな昆虫もやって来て、それを捕食する鳥もやってきます。鳥はその土地に糞を落とし、土壌に有機物を加えます。

このように、人が自然環境に積極的に関与することで、単に自然環境を保全するよりも生物多様性が高まり、生態学的な全体最適化がなされることを拡張生態系といいます。

ブルキナファソの事例 – 雑草も生えない枯れた土地はどうなったか?

生態学的最適にもとづく農業は生態系全体を改善するため、砂漠化の防止や回復に有効であると予測できます。この予測をもとに2015年、サハラ砂漠の南にある最貧国のひとつ、ブルキナファソで地元NGOと共同で協生農法の実証実験が行われました。

ブルキナファソはガーナの北に位置する乾燥した国で、環境変動と人口増加により深刻な生物多様性の喪失が進行中でした。陸上生態系の保全には、農業の生産性や土地利用の効率化が急務であり、協生農法が威力を発揮するのは厳しい環境という理論的な予測から、自然回復が見込まれないこの土地を選んだのです。

結果はわずか1年程度で、雑草も生えない過酷な土地がジャングル化。豊かな生態系に回復しました。

ブルキナファソでの協生農法の実験

画像:https://synecoculture.org/blog/?p=1234 より引用

一年草、多年草、つる性植物、陽樹(日当たりのよい環境でよく育つ植物)、陰樹(日陰の環境でもよく育つ植物)といった植生が混植状態で定着しました。500㎡の実験圃場からは130種の植物が生産され、生産高は1,000ユーロ/月となり、同地域の慣行農法の40~150倍に達しました。これは、ブルキナファソの一人当たり平均国民所得の20倍に相当します。(参考:Proceedings of the 1st African Forum on Synecoculture

この結果は、たった10㎡の協生農園で1人が貧困にならず生活可能なレベルであり、7,000ヘクタールの協生農園があれば、ブルキナファソの貧困を根絶できる可能性を示唆しました。10人の協生農法実践者が13の地域で、1年で10人の農家に指導するのを4年間繰り返すことで、14万人の雇用を創出できる計算ができます。この水準での生物多様性構築と経済化が一般化できれば、生物多様性条約愛知目標や、SDGsの「持続可能な農業」と「生物多様性の保全」に関する項目を達成できるかもしれません。

また、ブルキナファソでの実証実験の成果を受け、2016年より現地の政府機関が後援する国際会議(アフリカ協生農法シンポジウム)が5回開催され、協生農園への見学者も大幅に増えました。

さらに、アフリカ協生農法研究教育センター(CARFS)も設立されました。

https://synecoculture.org/blog/?p=1234
https://www.facebook.com/carfs.org/

協生農法を教える農業高校ESMA(マサ農業高校)も誕生しました。マサ農業高校のマサは、舩橋真俊博士の名前にちなんでいます。

協生農法 都内での実証実験 ~六本木ヒルズ「けやき坂コンプレックス」屋上庭園の事例~

協生農法の実証実験は都内でも行われています。2019年5月、六本木ヒルズの「けやき坂コンプレックス」の屋上庭園に、5つのプランターに180種超の植物種を導入。生育状態を観察しています。

ソニーCSLは本実験を通して都市における協生農法の可能性を調査するだけでなく、六本木ヒルズに設置するプランター自体を循環する生態系のネットワークを体感するための装置と捉え、今後も様々な場所に多様な植生を展開し拡張生態系に包まれた都市の提案を行うとともに、本実験で得た知見をもとに開発する「シネコポータル(旧:協生理論学習キット)」やワークショップなど、協生農法に関する学習のプラットフォーム化を目指します。

https://www.sonycsl.co.jp/press/prs20191029/

→ 六本木ヒルズで協生農法に関する実証実験を開始 ~循環する生態系ネットワークの都市への実装を推進~

協生農法の活動についてもっと知りたい方は、シネコカルチャーのブログへアクセスしてチェックして下さい。
→ 一般社団法人シネコカルチャーブログ

シネコカルチャー大磯分室での実践活動について

太田さんのパートが終わり、岡本さんからは大磯分室の活動内容について説明がありました。

シネコカルチャープログラム ナビゲーターの岡本覚さん

岡本さんは慶應義塾大学在学中の2019年より、ソニーCSLのリサーチアシスタントとしてシネコカルチャープログラムに参加。現在は一般社団法人シネコカルチャーの大磯分室を拠点に、協生農法をはじめとする拡張生態系に関する教育と普及、文化浸透に関わっています。ソニーCSLが拡張生態系の原理やマネジメントの支援技術の開発・研究を行っています。また、一般社団法人シネコカルチャーは拡張生態系の持つ広範な可能性を探索・社会還元するために研究や教育・普及を行っています。

大学時代の具体的な活動として、2018年から2020年にかけて慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス近くの耕作放棄地を協生農園にしました。そこでは元々の植生としてオオブタクサやササ、カラスウリなど優勢している草が約20種類しかなかったものが、畝立てや草刈りなど中規模の撹乱を実施することにより環境の多様性が増えたことで植物種は80種にまで増加しました。また新たに190種を導入し、合計270種の植物がいる農園を作りました。前の耕作放棄地の自然植生と、拡張後の協生農園の植生を比較すると、生物間相互作用が増加し、生物多様性が増したことがわかりました。

農園からは年間46種の野菜や果物が安定して収穫され、獲れた野菜を農園近くの農家レストランとマルシェで販売しました。岡本さんの卒論は、耕作放棄地での拡張生態系の検証と地域への実装がテーマだったといいます。

大磯分室の活動内容の説明の後は、午前中に協生農法ワークショップで作った「シネコポータル」の説明に入りました。

拡張生態系入門キット「シネコポータル」とは

シネコポータルとは、家庭菜園で協生農園を始めたい方向けに開発された「協生農法や拡張生態系の原理を学ぶための入門キット」のことです。ソニーCSLのWEBサイト上に、イラスト付きの詳しい作り方マニュアルが公開されています。

マニュアルのダウンロードはこちらから → 拡張生態系入門キット「シネコポータル」

シネコポータル
シネコポータルのイメージ

こちらのマニュアルには、シネコポータルについて以下の記載があります。ポータル構築に必要なものはホームセンターで購入できるので、気軽に始められそうです。

この農園の、果樹ひとつ分程度の植生を、実際に手元で再構築するのが「シネコポータル」です。小さな面積ではありますが、健全な表土の構築過程を体験的に学べるようになっており、原理の学習や観察が可能です。キットと銘打ってはいますが、特別なものは必要ありません。身近な資材の組み合わせで十分ですし、足りないものも近くのホームセンターや園芸店で購入できるものばかりです。1 日4時間の日照、水と空気、土と植物があれば、どこでもはじめることができます。

引用:ソニーCSL 拡張生態系入門キット「シネコポータル」

シネコポータルは露地タイプとプランタータイプの2タイプがあり、露地タイプでも1.5㎡ほどの面積なので、自宅のお庭でも手軽に始めることができそうです。マンションなどにお住まいの方はプランタータイプにチャレンジされてはいかがでしょうか。

「シネコポータルは中心に落葉樹の果樹を植えます。鳥や虫が実を食べに来るような果樹、特にブルーベリーがお薦めです。」と岡本さん。この果樹がアンテナとなって、外部の生態系とコンタクトするようなイメージでしょうか。

果樹の周辺には野菜や花の苗などを植えます。花の苗を植えるのは景観を楽しんだり、多様性を高めるためだそうです。さらに、球根やイモ、豆、シダ、コケ、地衣類など、それぞれ植物を導入します。その後は畝の上に、腐葉土や刈り草などを載せて完成です。

これまで読んできて、「シネコポータル、これなら私にもできそう!」と感じられた方も多いのではないでしょうか?環境にやさしい農法で家庭菜園やベランダ菜園を始めたい方、SDGsに向けて個人で何かできないかと考えている方に、協生農法はひとつの選択肢を与えてくれた気がします。

「協生農法を始めたいけど、もっと勉強をしたいな」という方は、私も参加している「恩方くらしラボ」で一緒にシネコポータルを観察しませんか?詳しくはこちらをご覧ください。→ 新プロジェクト「恩方くらしラボ」が始まります

恩方くらしラボであなたとお会いできるのを楽しみにしています!

取材の最後に

弘法大師空海
お寺を出るとき「谷響きを惜しまず。明星来影す。」というお大師様の言葉が私の頭をよぎりました。

協生農法の講義内容、いかがでしたでしょうか。慣行農法のネガティブな側面が強調されているように感じて、気分が悪くなった方もいるかもしれません。しかし、慣行農法は爆発的に増え続ける人口を養うため、時代に必要とされた側面もあったのではと個人的に感じています。また、農業大国からの外圧など政治的な要因も深く関係していたのかもしれません。

しかしながら、現状のままの環境負荷の高い農業を続けていると、地球環境は取り返しのつかないことになる。取り返しのつく間に新しい農法にシフトする必要があるのではないかと、地球サイドから人間側に決断を投げかけられている気がしてなりません。

農業をしながら環境負荷を下げるという、二律背反の課題に果敢にアプローチする協生農法。私はこの新しい農法が創り上げる未来に可能性を感じました。

皆様は、どのように感じられたでしょうか。

最後に、舩橋博士の最新インタビュー動画をご紹介して、当記事を終わりたいと思います。

*「協生農法」は株式会社桜自然塾の登録商標です。

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